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東京家庭裁判所 平成元年(少)17055号 決定

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、実兄K・Sと共謀のうえ、

第1平成元年3月13日午前11時40分ころ、東京都練馬区○○×丁目××番×号○○住宅×号棟A方において、同人外1名所有の現金約26500円及び預金通帳1通ならびに印鑑1個を窃取した

第2第1記載の窃取にかかる通帳と印鑑を利用して預金解約名下に金員を騙取しようと企て、同日午後0時23分ころ、同区○○町○○×丁目××番××号○○銀行○○支店において、行使の目的をもってほしいままに、「通帳を解約したい。」と申し向け、同店備え付けの払戻請求書用紙のおなまえ欄に「A」と冒書し、お届け印欄にAと刻した印鑑を冒捺し、もってA名義の普通預金払戻請求書一通の偽造を遂げたうえ、前記窃取にかかる預金通帳とともに提出し、同行員Bから渡された預金口座振替契約変更解約届の住所欄に「練馬区○○町○○×-××-×」おなまえ欄に「A」と冒書し、と届け印または暗証欄にAと刻した印鑑を冒捺し、もって預金口座振替契約変更解約届1通の偽造を遂げたうえ、同行員に対し、これをあたかも真正に成立したもののように装って、提出行使し、預金の解約を請求し、同行員をして正当な権利者による解約請求であると誤信させ、よって、即時同所において、同行員から預金解約名下に現金60万9054円の交付を受けてこれを騙取した

第3平成元年5月24日午後1時45分ころ、東京都練馬区○○町×丁目××番××号C方において、同人所有の現金約10万円及び預金通帳2通ならびに印鑑2個外3点(時価2100円相当)を窃取した

第4第3記載の窃取にかかる通帳と印鑑を利用して預金払戻名下に金員を騙取しようと企て、同日午後2時12分ころ、同区○○町×丁目×番××号○○銀行○○支店において、行使の目的をもってほしいままに、同店備付けの払戻請求書用紙のおなまえ欄に「C」、金額欄に「1100000」と各冒書し、お届け印鑑にCと刻した印鑑を冒捺し、もってC名義の普通預金払戻請求書一通の偽造を遂げたうえ、同行員D子に対し、これをあたかも真正に成立したもののように装って、前記窃取にかかる預金通帳とともに提出行使し、預金の払戻を請求し、同行員をして、正当な権利者による払戻請求であると誤信させ、よって、即時同所において同行員から預金払戻名下に現金110万円の交付を受けてこれを騙取した

第5平成元年7月17日午後0時30分ころ、東京都中野区○○×丁目××番××号○○××号室E方において、同人所有の預金通帳1通ならびに印鑑1個(時価300円相当)を窃取した

第6第5記載の窃取にかかる通帳と印鑑を利用して預金払戻名下に金員を騙取しようと企て、同日午後1時14分ころ、同区○○×丁目××番×号○○銀行○○支店において、行使の目的をもってほしいままに、同店備付けの払戻請求書用紙のおなまえ欄に「E」、金額欄に「1800000」と各冒書し、お届け印欄にEと刻した印鑑を冒捺し、もってE名義の普通預金払戻請求書一通の偽造を遂げたうえ同行員Fに対し、これをあたかも真正に成立したもののように装って、前記窃取にかかる預金通帳とともに提出行使し、預金の払戻を請求し、同行員をして、正当な権利者による払戻請求であると誤信させ、よって、即時同所において、同行員から預金払戻名下に現金180万円の交付を受けてこれを騙取した

第7平成元年10月26日午後1時30分ころ、東京都練馬区○○町×丁目×番×号G方において、同人所有の預金通帳1通ならびに印鑑1個(時価1000円相当)を窃取した

第8第7記載の窃取にかかる通帳と印鑑を利用して預金払戻名下に金員を騙取しようと企て、同日午後2時3分ころ、同区○○町×丁目××番××号○○銀行○○支店において、行使の目的をもってほしいままに、同店備付けの払戻請求書用紙のおなまえ欄に「G」、金額欄に「3800000」と各冒書し、お届け印欄にGと刻した印鑑を冒捺し、もってG名義の普通預金払戻請求書一通の偽造を遂げたうえ、同行員H子に対し、これをあたかも真正に成立したもののように装って、前記窃取にかかる預金通帳とともに提出行使し、預金の払戻を請求し、同行員をして正当な権利者による払戻請求であると誤信させ、よって、即時同所において、同行員から預金払戻名下に現金380万円の交付を受けてこれを騙取した

第9平成元年11月24日午後0時30分ころ、東京都練馬区○○町○○×丁目××番××号I方において、同人外1名所有の現金約9万3000円及び預金通帳1通ならびに印鑑1個外3点(時価2000円相当)を窃取した

第10第9記載の窃取にかかる通帳と印鑑を利用して預金払戻名下に金員を騙取しようと企て、同日午後1時49分ころ、同区○○×丁目××番×号○○銀行○○支店において、行使の目的をもってほしいままに、同店備付けの払戻請求書用紙のおなまえ欄に「I」、金額欄に「1500000」と各冒書し、お届け印欄にIと刻した印鑑を冒捺し、もってI名義の普通預金払戻請求書一通の偽造を遂げたうえ、同行員J子に対し、これをあたかも真正に成立したもののように装って、前記窃取にかかる預金通帳とともに提出行使し、預金の払戻を請求し、同行員をして正当な権利者による払戻請求であると誤信させ、よって、即時同所において、同行員から預金払戻名下に現金150万円の交付を受けてこれを騙取した

第11平成元年9月25日午後0時45分ころ、東京都世田谷区○○×丁目×番××号K方において、同人所有の現金約20万8300円及びブローチ1個外52点(時価合計33200円相当)を窃取した

第12平成元年10月25日午後0時30分ころ、東京都練馬区○○×丁目××番×号L方において、同人所有の現金約17万8500円及びテレホンカード20枚(時価10000円相当)を窃取した

第13平成元年11月21日午後1時ころ、東京都練馬区○○町×丁目××番×号M方において、N子所有の現金約4万5000円を窃取し

たものである。

(法令の適用)

第1、第3、第5、第7、第9、第11ないし第13の各事実について刑法235条、60条第2、第4、第6、第8、第10の各事実について同法159条1項、161条1項、246条1項、60条

(処遇の理由)

本件は、実兄とともに、長期間にわたり、多数回侵入盗を繰り返し、合計900万円余りの多額の金銭を手に入れていたと言う重大な事案であり、その態様は、予め侵入し易い家を物色して電話番号案内で電話番号を調べて電話をかけ、留守を確かめたり、窓ガラスを用意したガスバーナーで焼き水をかけて割って侵入したり、盗んだ預金通帳については、直後に、権利者になりすまして、近くの金融機関で払戻手続きをしたりするといったもので、時とともに、慎重さや周到さはどんどん嵩じてきており、犯情は悪質というほかない。

少年は高校を1年で退学したのち殆ど遊び暮らし、平成元年3月ころから、兄に誘われるまま、侵入盗に加担し、7月ころからは、両親のもとから離れて兄のマンションに同居し、全く稼働せず、盗みのための道具もとり揃え、もっぱら、盗みで手に入れた金銭で、生活してきたものであって、学業成績優秀で自己主張が強く8歳も年長の兄に追従して、容易に金銭が手に入る経験を重ね、侵入盗が生活の手段となっていたものである。

少年には、交通事件で不処分決定を受けた外はバイクの占有離脱物横領事件で審判不開始決定を受けたのみで、これまで保護処分をうけた経験はないものの、自分なりに物事を判断し、自己主張することは少なく、目先の困難を回避して易きにつきやすい傾向が顕著で、不良な環境のもとでは、さほどの抵抗感もないまま、追従同調した問題行動に至りやすいといえる。

また、少年は、両親を仕事に忙しくて不仲ととらえて軽視しており、両親との心情交流は希薄である。両親は被害弁償に非常に努力しているものの、今後、少年の建全な生活意欲を喚起して規範意識を高めるため、その内面に働きかけていくような指導は期待しがたい。

以上の少年の非行事実、性向及び家庭環境等を総合し、少年自身に、自分の非行の深刻重大さの認識や内省は年齢相応に深まってはいないことをもかんがみると、少年には、今回は、自分の問題点を充分に認識すること、自己主張することや主体的に問題解決する訓練をすること、家族と自分との関係を見つめ直すことが必要であり、そのためには、少年院に収容して矯正教育を受けさせることが相当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項により主文のとおり決定する。

なお、少年の非行性の程度等に照らし、少年に対しては一般短期処遇が相当であるので、別途その旨の勧告をする。

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